エクスタシー
私の名前のカタオカは、村上龍の「エクスタシー」の登場人物、カタオカケイコから拝借した。
「エクスタシー」を読んだのは、高校生の時だった。
そしてその時から、私にとってカタオカケイコは憧れの人だった。
カタオカケイコは憧れの人ではあったけれど、私はカタオカケイコになる努力をしようとは思わなかった。
だからSMクラブの女王様にもならなかった。
なりたいと思ったのかどうかすら、定かではない。
もしかすると、無意識のうちに、諦めていたのかもしれない。
私は容姿に恵まれてなどいない。
私は知識に溢れてなどいない。
私は気高さなど持ち合わせていない。
カタオカケイコはあまりに自分から遠すぎて、努力でどうにかなる問題ではないと、幼いなりに判断したのかもしれない。
もちろん、幼い頃から知識としてSMぐらいは知っていた。
けれど、私にとってのSMの原点は、「エクスタシー」だったのだ。
不思議なことに、私はあの日から、ずっとそれを忘れていた。
成人した私は、サディストであったりマゾヒストであったりしながら、プライベートでSMと関わるようになった。
けれど、「何かが違う」、常に心の片隅でそう思っていた。
マゾヒストとしてSMに関わることがほとんどなくなった頃、私は自分が何を求めているのかを考えるようになった。
それでも明確なこたえは見つからなかった。
私にとってのSMは、常に靄がかかった状態で、SMをすることで、かえってストレスが溜まるほどだった。
そんな時、ヤザキという一人の男性と再会した。
ヤザキは私にいった。
「村上龍のエクスタシーが好きだ」
カタオカケイコのことを思い出した途端、私は開眼した。
自分の欲望を、私はその日から、見つめ始めた。